眠気を判定するためのMSLTの基礎知識
専門医が教える反復睡眠潜時検査(MSLT)
中枢性過眠症が疑われるときに病院で施行する眠気の程度を測定する検査について
監修:阪野クリニック岐阜いびき睡眠障害の治療外来 阪野勝久
眠気を生じる眠りの病気は数多くあります。睡眠障害の国際分類の中に
中枢性過眠症と呼ばれる疾患群が分類されています。代表的な病気として、
ナルコレプシー、特発性過眠症があります。
一般的に、過眠症を診断するとき、他の睡眠障害や内科の病気、薬剤による
眠気への影響、睡眠不足などを除外した上で、反復睡眠潜時検査という
日中の眠気を客観的に評価するテストをオーダーします。
この検査は、multiple sleep latency testと英語表記されていますが、
病院の外来では、頭文字をとってMSLTを省略して呼称しています。
通常、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)をMSLTの前夜に施行します。
MSLTが施行可能な病院やクリニックは少なく、過眠症で悩んでいる方々が
どこで診断を受ければよいか困っているのが現状です。日本睡眠学会の
A型の認定医療機関はナルコレプシーと過眠症の検査に対応しています。
詳細は睡眠障害の専門病院のページを参照して下さい。
MSLTは日中に4-5回の昼寝をとってもらい(もちろん脳波を装着した状態で)、
睡眠潜時(sleep latency)を各セッションで記録します。通常、朝9時から
2時間おきにセッションが始まり、最終の昼寝は午後5時から始まります。
このテストの注意点として、各セッションの30分前には喫煙中止が必要です。
また、緑茶、紅茶、ウーロン茶、コーヒーなどカフェインを含む飲み物は、
この試験の結果に影響するので厳禁です。
検査開始から睡眠が記録された場合は、15分延長してレム睡眠が出現するかを
観察します。一方、まったく寝ないときは20分の記録で終了します。
ナルコレプシーおよび特発性過眠症の診断には、MSLTのデータを要します(※)。
測定結果を解釈するポイントとしては、以下の二つです。
1)入眠までにかかった平均時間(平均睡眠潜時)
2)入眠してから15分以内に出現するレム睡眠の回数
(sleep onset REM period: SOREMP)
※ナルコレプシーtype1の診断で脳脊髄液のオレキシン値を測定した場合を除く。
Epworth sleepiness scale(エプワース眠気尺度)は主観的な眠気を
判定する質問票です。一方、MSLTは客観的に眠気を定量化したものです。
一般的には、平均睡眠潜時が5分以内の場合に病的な眠気と判断します。
睡眠障害の国際分類(ICSD-3)において、ナルコレプシーと特発性過眠症の
診断に用いられる基準は、「平均睡眠潜時8分以内」です。
ナルコレプシーではSOREMPの回数がMSLTの5回のセッションで2回以上あることが
条件となっています。一方、特発性過眠症の診断には、SOREMPの回数が1回以下で
あることが必須となります。
さらに、MSLTは前夜にPSGを施行するので、PSG施行時に出現するSOREMPの
回数もカウントするルールになっています。
ナルコレプシーでは、PSGに記録されたSOREMPも1回分とします。特発性過眠症の
場合は、PSGでSOREMPが計測されれば、MSLTではSOREMPなしが条件となります。
特発性過眠症とナルコレプシーtype1(あるいはtype2)を鑑別するには、
臨床症状のカタプレキシーの有無に加えて、SOREMPの回数が勘所です。
反復睡眠潜時試験は、ナルコレプシーが疑われるときに用いる検査の一つで、
特発性過眠症の診断にも有用です。また、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の方で、
CPAP治療を継続していても異常な眠気がある場合、臨床的な評価に必要です。
本邦では中枢神経刺激薬の適応があるか、眠気の客観的な判定のために、
MSTLは活用されています。
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