肥満低換気症候群の症状と診断・治療管理
極度の体重増加が原因である睡眠時呼吸障害
肥満症に合併する睡眠関連低換気疾患の臨床的所見や症状および病院で行う治療とは
監修:阪野クリニック岐阜いびき睡眠障害の治療外来 阪野勝久
日頃、睡眠障害の外来で診察をしていると、過食によって体重がかなり増えて
閉塞型睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)の症状の治療相談を
希望されることが少なくありません。
その中には、重度の肥満体型のため、強い眠気および昼間でも頭痛が続く症状で
相談される方がいますが、息切れ、呼吸困難など、心不全の所見を呈することも
あります。今回は、重度の肥満に関連した眠りの病気について説明します。
上記の症状があると、肥満低換気症候群(OHS)が診断として疑われます。
睡眠障害の国際分類の中で、睡眠関連低換気のグループに属するものです。
高度の肥満と肺胞低換気(高炭酸ガス血症)が特徴である病気です。
最近ではピックウィック症候群(Pickwickian syndrome)の呼称について、
OHSとOSAが混同された疾患概念であるので、OHSとして使われていません。
OHS患者では、日中の過眠症状を訴える場合が多いです。他の症状としては、
動脈中の二酸化炭素濃度が高いので、朝方の頭痛を生じることがあります。
その他、疲労感、気分障害、集中力および記憶力の低下が報告されています。
高炭酸ガス血症に加えて低酸素血症も合併することが多いので、肺高血圧、
右心不全、不整脈などの循環器の病気を、緩徐に発症していきます。
多血症の所見として赤ら顔を呈することや、下腿浮腫が目立つ例もあります。
OHS患者は病院で病気として適切な診断を治療を受ける前までに、入院回数や
外来通院回数が多いことが知られています。高度肥満があることから、
致死性の心臓血管イベントが発生しやすい傾向があり、早期治療が大切です。
すでにメタボリックシンドロームを併発しているときは、高血圧、糖尿病、
脂質異常症への対策も一緒にとる必要があります。
肥満低換気症候群の確定診断には、覚醒時の低換気が存在していること、
すなわち、高炭酸ガス血症(PaCO2:45mmHg以上)が検査で確認されていること、
高度肥満(BMI:30kg/m2以上)があることの2点が必須となります。
低酸素血症は、診断に必要な条件ではありませんが、たいてい存在します。
さらに、低換気の原因が、先天性要因、心臓、肺や気道の病気、神経の病気、
薬剤による影響が主体ではないことが必要となっています。
終夜睡眠ポリグラフ検査の所見では、眠っているときに低換気の悪化が生じ、
特にレム睡眠の時間帯に著しくなります。一般的に、OHSでは8割以上の割合で
閉塞型睡眠時無呼吸(OSA)を合併します。
1)減量療法
この病気自体が、高度肥満に合併した睡眠関連呼吸障害であることから、
減量が根本的治療となります。体重減少によって、呼吸困難を解消し、
血圧の低下、眠りの質の向上をはかることがゴールとなります。
肥満外来では、食事療法と薬物療法を行うことが主体となります。
漢方薬、サノレックス(一般名:マジンドール)の名称で知られる
食欲を抑える薬などを活用します。
外科治療として、減量手術(bariatric surgery)を検討することも
あります。
2)呼吸補助療法
非侵襲的陽圧人工呼吸療法の中で、Bilevel-PAPと呼ばれる呼気圧と吸気圧の
2種類の圧が設定されたものを適応することが多いです。英語表記では、
non-invasive positive pressure ventilation(NIPPV)と呼ばれています。
この補助換気よる治療によって、OHSの本態である高炭酸ガス血症が改善し、
夜間の不安定な睡眠や呼吸困難が改善します。
CPAP治療を行うと夜間の無呼吸回数は減少しますが、昼間の高炭酸ガス血症の
是正については、不十分となることが多いようです。
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