中枢性過眠症であるナルコレプシーの診断
ナルコレプシーのタイプ別の診断基準
ナルコレプシーの診断基準に用いられるMSLT所見と脳脊髄中のオレキシン値について
監修:阪野クリニック岐阜いびき睡眠障害の治療外来 阪野勝久
学校生活を送っている生徒で、授業中の居眠りで困っている方がいます。
睡眠不足や不規則な生活リズムがない条件でも、昼間に異常な眠気が
生じる場合は、中枢性過眠症と呼ばれる病気を考えられます。
この眠りの病気は、思春期に多く発病しますが、成人になってから、
眠気が問題となるケースもあります。健常者と比較検討すると、
勉強中の学習および仕事中の作業効率の低下という悩みの原因となります。
ナルコレプシーと呼ばれる病気は、中枢性過眠症の代表的なものですが、
国内では必須の検査を行うことができる病院が少ない現状があります。
そのため、確定診断と治療を受けるまでの時間がかかる問題があります。
病院で適切に診断されたあとに眠気対策として処方される薬については、
ナルコレプシーの治療薬をご覧下さい。
日中の異常な眠気が主症状ですが、この病気にはレム睡眠関連症状の一つ、
カタプレキシー(情動脱力発作)の有無によって分類されています。
2014年3月に発表された睡眠障害の国際分類では2タイプがあります。
いずれのタイプも「少なくとも3ヶ月以上続く眠気」の症状が必須です。
さらに、検査所見として、脳脊髄液中のオレキシン値(髄液検査)又は
反復睡眠潜時検査(multiple sleep latency test:MSLT)のデータが
必要です(→後者の詳しい内容はMSLTのページを参照して下さい)。
MSLTは睡眠障害の専門病院で受けることが可能です。
MSLTについて、診断基準に用いる条件としては次の項目です。
1.平均睡眠潜時(MSLTの5回のセッションにおいて入眠までの時間の平均値)が、8分以内。
2.入眠後、15分以内に出現するレム睡眠(sleep onset REM period:SOREMP)について、
MSLTの5回のセッションの中で、2回以上(※)のSOREMPが確認される。
※前夜に行う終夜睡眠ポリグラフ検査にてSOREMPがあれば1回分として加えます。
上記は「ナルコレプシー患者の客観的眠気の強さと寝入りばなにレム睡眠が
生じやすいという特徴」を検査で証明しているわけです。
一方、オレキシン値についてポイントは下記の通りです。
脳脊髄液中のオレキシン値が110pg/ml以下 又は同じ分析方法で測定した
正常平均値の3分の1未満であるかです。オレキシンは覚醒作用があるので、
この数値が病的に低いときは、眠気の原因と考えられます。
以下、タイプ別にナルコレプシーの診断について解説していきます。
「少なくとも3ヶ月以上続く眠気」に加えて、下記の1あるいは2を満たす。
(両者を満たしてもよい)
1.カタプレキシーがあり、MSLT所見(上記において青色で表示)に合致する。
2.脳脊髄液中のオレキシン値の低下が確認されている。
注意点としては、異常な眠気を呈して、髄液中のオレキシン値の低下があれば、
カタプレキシーが存在しなくてもtype 1と診断されます。
1.少なくとも3ヶ月以上続く眠気がある。
2.MSLT所見(上記において青色で表示)に合致する。
3.カタプレキシーが存在しない。
4.脳脊髄液中のオレキシン値が測定されていない、又はオレキシン値が高い(※)
5.眠気とMSLT所見が他の病気や病態、薬剤の影響で説明できない。
※検査所見のポイントにあるオレキシン低値の条件を満たさない(上記において青色で表示)
type 2が確定しても、その後の病状経過により、カタプレキシーの症状が
出現した場合、又は脳脊髄中のオレキシン低下が確認されるようになった場合は、
診断がtype 1に変更になります。
ナルコレプシーには日中の眠気のほかに、睡眠麻痺(金縛り症状)、入眠時幻覚、
自動症を呈することがあります。しかし、これらは診断には必須ではありません。
また、ナルコレプシーでは頻回の覚醒が起こり不眠の症状が出ることがあります。
中学生や高校生において長時間睡眠の傾向があり、朝、なかなか目覚めない、
たくさん眠っても頭がぼーっとしていて、一日中、眠気が異常に強い問題を
相談するケースがあります。類似疾患としては、特発性過眠症があります。
各種メディア取材、病院の教育講演、睡眠障害の記事監修など。
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